ご挨拶

日本武道学会第56回大会開催挨拶|日本武道学会会長 大保木 輝雄

コロナ禍による規制が解け、4年ぶりの対面開催となった本大会は、ポーランドの研究団体「IMACSSS(International Martial Arts and Combat Sports Scientific Society)」との共催となりました。本大会に至るまでの大会委員の方々のご尽力と武道に対する情熱に対し、あらためて敬意を表します。また、会場をご提供頂いた大阪教育大学の太田順康先生をはじめ関西支部会員の皆様に感謝申し上げます。

思いおこせば、本学会の大会において海外を視野に入れた企画の画期となったのは、2012年の第45回大会でした。本部企画として「武道の捉え方-世界の動向-」と題する国際シンポジウムが開催され、大韓武道学会の金正幸会長とIMACSSSのW.J.シナルスキー会長及び百鬼史訓本学会会長をパネラーとする鼎談を機に国際学会開催が目指され、翌年の第46回大会と第50回大会でそれぞれ2回目と3回目の国際シンポジウムが開催されました。この流れから言えば第55回大会で4回目となる国際シンポジウムが企画されるはずでしたがコロナ禍により先延ばしとなり、本年度の開催となりました。

本大会では、W.J.シナルスキー会長による「ヨーロッパの武道研究事情」と題する特別講演が実施されます。また、本部企画としては「多様『性』と武道」と題したシンポジウムを開催します。これは、第51回大会から実施された「生涯武道」をキーワードとしたシンポジウムの開催を契機に、「女性の武道」など多様なテーマへの着目を経て、武道における多様性への許容力が確認されるといった一連の流れを踏まえての企画です。多様な「性」と武道についての多角的な論議が期待されます。また発表については、従来の三部門(自然、人文・社会、指導法)に加え、国際セッションがオンデマンド形式で実施されます。

ここ数年続いたコロナ禍により、対面の在り方が規制されました。私たちはそれなりの不便を抱えながらIT機器の活用により新たな人と人の関係を構築し、対面でなくても出来ることや対面でなければ出来ないことを明瞭にしてきたように思います。このような事情は世界共通の現象です。コロナ禍は期せずして、日常生活における人と人との直接的な関係の在り方である「対面」の意味を問い直す契機となりました。「病気」になって初めて「健康」の有難さに気づくように、それまで当たり前で気にも留めていなかった「対面」そのものに関心を向け始めたのです。そのような状況下で、私は当たり前のこととして疑いを挟まなかったこの「対面性」こそが、武道文化を読み解くキーワードになるのではなのではないか、と考えるようになりました。しかも、武道が大前提にする「対面」の仕方は、エチケットやマナーといった礼儀が重要とされる日常においては無礼とされかねないような、相手から目を背けずしっかり向き合うことなのです。これをどう捉え、いかに読み解きましょうか。先行き不明瞭、多様性が当たり前の世界において、武道の世界こそが、人種・性別・年齢を超えた「対面」の在り方を細微にわたって示してきたのではないか。そんな妄想が浮かんできます。

皆様の内側に膨らんでいる想いが今回の大会を通じて、真剣な「対面」の場で飛び交うことを願って止みません。