日本武道学会第57回大会開催のご挨拶

日本武道学会会長 大保木 輝雄

この度の大会は、コロナ禍による規制が解け5年ぶりに従来通りとなったばかりでなく、九州で開催される初めての大会です。そのような記念すべき大会開催にご尽力いただいた池田孝博九州支部長、会場を提供頂いた秋山大輔九州産業大学准教授をはじめ九州支部の皆様の熱意と努力に感謝申し上げます。

九州は、海外との接触地点として日本の国家形成において重要な役割を果たしてきました。古代国家形成の契機になったと言われる「白村江の戦い」、中世の「蒙古襲来」、近世初期に長崎に設置された「出島」でのオランダとの交流を始め、中国・朝鮮、ヨーロッパとの交流の重要拠点として機能したことは周知のことです。そのような背景にあって、本大会では、「武道」を受け継ぐ次世代に対して「伝統と文化」の具体的な内容の海外向け発信源として機能することが期待されます。

海外を視野に入れた企画は、2012年の第45回大会以来4回実施されてきました。昨年は、ポーランドの研究団体(IMACSSS)との共同開催となり、コロナ禍でのオンラインシステムを導入し英文での国際セッションが設けられました。これを受けて今回も英文発表コーナーが残されました。また、この間のコロナ禍にあって、本会の運営に携わる理事長を中心とする常任理事会、理事会、各委員会諸氏の目覚ましい努力があったばかりでなく、全国8支部会、8専門分科会から初心者指導法の研究や理論と実技の融合をテーマとした地道な活動も有りました。また、本年度は日本武道学会理事会ワーキンググループの活動刷新も検討され、国の内外を射程距離に入れた学会活動のリニューアルが期待されています。

本学会の創設が1968年(昭和43)。8年後の1976年に日本学術会議に、翌1977年には国際スポーツ科学・体育学会加盟が承認されて概ね半世紀。そして今日、武道を対象とした学術研究の成果が各界に向けて発信されるようになってきました。今後も武道の特性について多くの知見が蓄積されることでしょう。

本部企画では「武道ならではのインクルージョン」と題するシンポジウムが開催されます。昨年は「生涯武道」に関する過去の様々な企画を踏まえて浮上した「多様性」に着目し「性」にかかわる多様な在り方が議論されました。その過程で「武道には競技の枠を脱却し、すべてを包み込むような底知れない可能性」への気づきがありました。この「包み込む力」すなわち「インクルージョン」をテーマとして、様々な特性をもった方々の話をうかがい、今後の方向性について思考を深めるための企画です。

イギリス人柔道家でもあったトレバー・レゲット(1914-2000)『紳士道と武士道』、『日本武道のこころ』という比較文化論の古典ともいうべき著作には、「気合」、「霊感」というキーワードが掲げられ、その読み解きが「普遍的な原則、効用であり、日本で発達し、そして今、これを待っている世界にもたらされるべきもの」だと指摘されています。

武道の歴史的経緯を辿れば、その出発点は「対面」にあります。その対面は単に向き合うだけでなく、お互いに否定し合う関係性が出発点になっています。対面性の闇というべき相互否定の場から相互肯定の在り方を示したのが「武道」。そこでの「気合」、「霊性」の読み解き作業に繋がることを願って止みません。

九州産業大学学長 北島 己佐吉

日本武道学会第57回大会の開催にあたり、心よりお慶び申し上げます。また、全国各地よりご参集いただいた皆様に対し、深甚なる感謝の意を表します。日本武道学会の皆様が一堂に会し、日頃の研究成果を発表し、活発な議論を交わすこの貴重な機会に、九州産業大学を会場としてお選びいただきましたことを、大変光栄に存じます。

福岡県は、日本の九州地方に位置し、古来より文化と経済の中心地として栄えてまいりました。福岡市は、歴史と現代が融合する活気あふれる都市であり、自然の美しさと豊かな文化遺産を有しております。特に博多は、伝統的な祭りや工芸、そして豊富な食文化で知られ、国内外から多くの観光客が訪れる地であります。皆様には、学会の合間にぜひ福岡の風土や文化に触れていただき、心身共にリフレッシュしていただければと存じます。

九州産業大学は、1960年の創立以来、産業と大学が一体となって社会に貢献を果たすべく「産学一如」を建学の理想に掲げ、教育と研究の両面で多くの成果を上げてまいりました。本学は、多様な学問分野を擁し、地域社会との連携を重視した教育・研究活動を推進しております。現在では、文系・理工系・芸術系の9学部と造形短期大学部、大学院5研究科からなる特色ある総合大学として、ひとつのキャンパスに約1万人の学生が学んでおります。また本学は、創立以来、地域社会と密接に関わりながら、その発展に寄与してまいりました。教育面では、学生一人ひとりの個性と能力を最大限に引き出す教育プログラムを提供し、研究面では、多岐にわたる分野で先進的な研究を推進しております。特に、2018年に新設した人間科学部スポーツ健康科学科においては、最新の科学技術を駆使した研究と実践を通じ、産学連携による知見の創出や開発、地域社会の健康増進および小中高の学校教育との連携に貢献しております。

本学における武道教育も、伝統と革新の精神を持って取り組んでおります。空手、剣道、柔道、弓道などの各種武道において、学生たちは技術の向上と共に、精神の鍛錬にも励んでおります。本学の武道系サークルは、全国大会での優勝経験もあり、高い実績を誇っております。これらの活動を通じて、学生たちは武道の精神を学び、人格形成に努めております。また、武道の研究と実践を通じて、社会に貢献することを目指しております。本学の健康・スポーツ科学センターでは地域貢献活動の一環として、学生、教職員、卒業生が協力し「スポーツフェスタ」を年に一回開催しております。この活動は30年以上続いており、空手と剣道において地域の小学生、中学生を対象とした大会、技術指導を実施しております。教職員一同、武道の精神を尊重し、その普及と発展に尽力してまいりました。本活動に留まらず、武道に関する教育研究の推進を継続してまいる所存です。

結びに、本大会の実施にあたり、大保木輝雄会長をはじめ日本武道学会の役員の皆様、日本武道学会九州支部会員の皆様のご支援、ご協力に対し衷心より御礼申し上げます。参加者の皆様が有意義な時間を過ごし、新たな知見と交流を深める機会となることを心より願っております。九州産業大学の教職員一同、皆様のご滞在が実り多きものとなりますよう、全力を尽くしておもてなしいたします。

日本武道学会の益々のご発展と、参加者皆様のご健勝とご多幸を祈念し、ご挨拶とさせていただきます。